I-GLOCALグループ、スターシアグループ 、CaN International、CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd.
蕪木 優典、黄 泰成、大久保 昭平、工藤 拓人
工藤:コロナ禍はクロスボーダーM&Aの市場にも深刻な影響をおよぼしています。私が拠点を構えているベトナムにおいても、顧客に直接サービス提供するコロナの影響の大きい案件は伸びておらず、買い叩かれる傾向にあるように思いますが、皆さんの印象はどうでしょうか。
大久保:弊社へのお問い合わせが比較的多い東南アジア各国に関しても、昨年の新型コロナウイルスの感染拡大以降、M&A案件に関しては業種にかかわらず進行中の案件の延期や中止、新規案件の手控えなどが顕著に見られます。2020年の秋頃に一度回復の兆しもありましたが、その後のコロナウイルス感染の再拡大によって、現在まで厳しい状況はつづいています。
蕪木:そのような厳しい環境のなかでも、日本においてもケンタッキーフライドチキンやマクドナルドが宅配・テイクアウト需要に対応して業績を伸ばしているように、海外においても一部の飲食チェーンは順調に伸びています。
工藤:サービス業のなかでもベトナムといえばオフショア開発を中心にIT関連の企業が順調に成長を遂げていますが、そのあたりはどうですか。
蕪木:ベトナムはIT関連の優秀なエンジニアが多く、テック系のスタートアップの次々と誕生するなど、ITにかなり強みを有しています。そのため、依然としてベトナムのIT関連の企業を買収したい、あるいは業務提携を結びたいといったニーズは根強くあるのが現状です。コロナ禍の影響が少ないどころか伸びている業界のひとつでしょう。
黄:ベトナムといえば、かなり前から日本のオフショア開発のニーズを一手に引き受けていた印象がありますね。
蕪木:実際、多くのIT企業やプラットフォーマーがベトナムにオフショア開発の拠点を持ち、それを活用しながら成長を遂げてきました。ただ、最近の傾向としてはたんにオフショア開発を行うのではなく、DXやAIに関するさらなる研究開発の拠点として活用や、ベトナム自体の成長に伴いマーケットでの売上拡大にも取り組んでいる企業が増えています。戦略的な拠点としてより先進的な取り組みを推進していこうとするケースが目立ちます。
工藤:ベトナムにおいてITが依然として堅調だということはわかりましたが、その他の国についてはどうでしょうか。
大久保:たしかにエンジニアの量という面では、東南アジア諸国でもベトナムが一歩先んじている印象です。一方、動画や画像処理のようなグラフィック系のエンジニアに関しては、中国、台湾、韓国などが強い印象ですね。また、この地域では勢いのあるIT系のベンチャー企業が多いように感じます。
黄:韓国に関してはM&Aというよりは、IT関連に対する投資の動きが盛り上がっています。今年5月下旬にはソフトバンク・ビジョン・ファンドがAIなどを活用したエドテック系のスタートアップ企業であるRiiidに200億円ほど投資しましたが、これもかなり良い投資だと思います。そのほか、ソフトバンク・ビジョン・ファンドは過去にモール型のECサイトを手掛けるクーパンにも投資していますが、こちらもユニコーン企業として順調に成長しています。
工藤:たしかに韓国のIT企業には大きな可能性がありそうですね。
黄:韓国のIT企業は他国に先駆けて新しいサービスやプラットフォームを開発したり、開拓したりするので、そのあたりが高く評価されているのだと思います。たとえば、日本でも有名なウェブマンガのプラットフォームにピッコマやLINEマンガなどがありますが、これらはいずれも韓国資本です。また、アメリカのウェブマンガのプラットフォームも韓国のカカオが買収し、運用しています。
大久保:なるほど。たしかに韓国企業はいわゆるout-in型M&Aにおいて、日本企業の買い手になるケースも多いですよね。背景には企業風土や文化の特色などがあるんですかね。
黄:韓国の場合は、自国のマーケットがけっして大きくはないので、最初から欧米や日本などをマーケットとして意識しているのですが、それがITのように距離の影響を受けないビジネスの場合はうまく作用しているのだと思います。もちろん、そのあたりに着目している日系のファンドや事業会社も多いので、これからも韓国のIT企業に対する投資やM&Aは盛り上がっていくのではないでしょうか。
工藤:そういった投資に関してはベトナムや他の東南アジア諸国においても堅調ですね。
蕪木:日系のVCなどもベトナムに積極的に投資しており、アドバイスを通してたがいの成長を目指しているようです。ベトナムにおいても、こういった広義のM&Aはますます盛んになってくると思います。また、東南アジアではGrabやGoToグループなどがライドシェアを皮切りにECプラットフォームやフィンテック企業をどんどん取り込む流れになっており、M&Aや各企業の拡大戦略においても無視できない存在になってきています。対象となる会社だけを見るのではなくグローバルな目線を持って投資戦略を考えることも必須になっています。
工藤:これからも人口ボーナスなどを背景に東南アジアのマーケットが伸びていくことは間違いないわけですから、M&Aや投資には確実に大きな可能性があります。ただ、それを成功に導くには買い手と売り手の双方にある種のリテラシーが必要であるように思います。
黄:日本企業にとって、そのあたりは実に大きな課題です。最近は韓国企業が日本企業を買収しようとする動きもあるわけですが、日本側に財務リテラシーがないために日本側に不利な状況で商談が進んでしまうことがしばしばあります。よくいわれることですが、日本企業や日本人は今後、しっかりと財務リテラシーを身につけていかなければ、グローバルビジネスのなかで生き残っていけなくなるのではないでしょうか。とくに中小企業はそのあたりをないがしろにしがちなので要注意です。
蕪木:日本の中小企業はたしかにM&Aが苦手なイメージがあります。
黄:財務リテラシーが低いと、経営者が感情や思い込みだけで突っ走ってしまいがちなのです。財務デューデリジェンスの結果を見れば一目でやめたほうがよいとわかるような案件でも、経営者の暴走を周囲が止められないといったことがありますから。
大久保:財務リテラシーも重要な点ですが、そもそも戦略不在の会社が多く、M&Aの目的がはっきりしないディールが多いのも問題ですね。また、M&A検討開始までの意思決定に関して腰が重かったり、遅かったりする一方、一度投資検討に入ると実行ありきのスタンスになるのも日本企業に見られる傾向であるように思います。
工藤:ITにかぎらず、潜在的なニーズをとらえることができれば、まだまだM&Aにも大きな可能性があると思いますが、皆さんはどう思われますか。
蕪木:まさにその通りだと思います。たとえば、ファッションにしても日本にはないブランドでこれから人気が出そうなところをおさえることができれば、大ヒットする可能性があるはずです。もちろん、そのためにはシビアな選球眼が必要になりますが。
黄:ある韓国企業が国内のアウトドア需要を見据えて、世間でほとんど知られていないイタリアの老舗登山靴メーカーを買収し、ファッションの本場イタリアのアウトドアブランドと銘打って販売しはじめたところ、これが見事にヒットしました。今では登山靴だけでなくダウンジャケットなども製造し、韓国でもっとも売れているアウトドアブランドになっています。
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