I-GLOCALグループ、株式会社うえる、江黒公認会計士事務所
蕪木優典、上野 亨、江黒崇史
デフレ不況とコロナ禍にある日本にあって、今もなお約2000社がIPO(新規上場)を目指しているという。はたして、その目的はどこにあるのか。
たんなる資金調達のためなのだろうか。さっそく、数々のIPO支援を手掛けてきた3人に、なぜ多くの企業がハードルの高いIPOに挑むのか、そのワケとトレンドを聞いてみた
蕪木優典・I-GLOCALグループ代表:コロナ禍ではありますが、2020年に新規上場した企業は102社、21年は136社と堅調に推移しています。その背景にはどういった事情があるのでしょうか。
江黒崇史・江黒公認会計士事務所代表:IPO予備軍はコロナ禍前から数多く存在しているのですが、証券会社や監査法人などのキャパシティが足りず、市場に送り出すことができないでいるという事情があります。ただ、昨年については証券会社や監査法人などが人員などの体制を整えたこと、特に監査法人にいえば準大手監査法人や中小監査法人の監査受嘱が増えたこと、コロナ禍の影響で上場が後ろ倒しになってしまった企業が多かったことなどが重なり、急激にIPOの件数が伸びたものと思われます。
上野亨・うえる代表取締役:現在、主幹事会社を務める証券会社は5社あり、それぞれが200社程度のIPO予備軍を抱えています。また、監査法人もそれとは別におよそ同数のIPO予備軍を抱えているので、あわせると約2000社がつねにIPOを目指しているようなイメージになります。そして、そのなかから証券取引所や証券会社に認められたところが順次、IPOをはたしていくわけです。
蕪木:業績的にはそのうちどのくらいの企業がIPOを実現できそうでしょうか。
上野:証券会社とのヒアリングを通して感じるのは、実際にIPOの可能性があるのは全体の約20㌫といったところでしょうか。この傾向自体は2000年初頭のITバブルの頃からそう変わっていないと思います。
蕪木:いったん上場すると監査報酬などの間接費が増加するので、ギリギリの経営状態では厳しいでしょうね。ところで、最近ではIPOやM&Aが経営戦略のひとつとして、かなり市民権を得てきた印象がありますね。直近ではマーケットは冷え込みましたが・・・
上野:たしかにそうですね。ただ、資金調達という側面だけでみると、ベンチャーキャピタルからの調達が比較的容易に行えるようになったので、ある程度の金額まではベンチャーキャピタルを活用したほうがいいかもしれません。
江黒:他方、M&Aに関しては自社の売却を希望する若手経営者が増えているように思います。そういった経営者の多くは、上場企業が一から手掛けるのは難しいようなニッチなビジネスをスタートアップし、最終的に上場企業に買ってもらうという戦略を描いています。そして、売却後はまた新しいビジネスを立ち上げるというパターンが多いですね。
蕪木:それも今後のトレンドになりそうですね。たとえば、GAFAの一機能になるようなプロダクトやサービスをつくることができれば、上場企業からも引く手あまたになるように思います。
上野:実際、上場企業などからの出資でファンドを組成し、そういったニッチなビジネスを積極的に投資するスキームも存在します。IPOとは異なりますが、これもまた新しい潮流といえるでしょう。
江黒:経営戦略の選択肢の増加とともに、経営者自身の思いとビジョンがこれまで以上に問われる時代になっています。IPOはそれを成し遂げるだけでも大変だし、IPO後の経営はそれ以上に大変です。シッカリとした思いとビジョンがなければ、IPOのハードルを越えることはできないでしょう。
蕪木:IPOを実現した後にすぐに売却するという戦略も考えられますか。
江黒:アメリカでは時折、そういったことがあるようですが、日本だとそういう話はほとんど耳にしません。というか、その程度のモチベーションでは、IPOのハードルを越えるのは難しいのではないでしょうか。
上野:やはり何のためにIPOを目指すのか、ということが重要です。たとえば、同業他社との差別化を視野に入れると、圧倒的にIPOに利点があります。信用力と資金調達能力が格段に向上するので、競合を一気に引きはなすことができるはずです。
蕪木:同業他社との差別化という点では、IPOとシナジーがあるビジネスかどうかを見極めることも大切なような気がします。
江黒:たとえば、教育系のビジネスは未上場企業が多数ひしめきあっているので、いちはやくIPOを目指してスケールしたほうが得策かもしれませんね。
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